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「テレポート・アウト。ふう、成功っと。……まったく。やっぱりここは相変わらずボロボロ学校ですね」

 

同時間帯、7時50分ごろに着いた生徒たちを見送りながら、わたしはその生徒たちに見つからないように、

校庭の隅にある木陰に身を隠す。それからの少しのあいだ、わたしは日課の一環として学校の外観を眺めていた。

この中学校は基本的に旧時代の遺跡を補強してつくられているのだけど、資材の不足という理由から鉄やコンクリート、ガラスなどの高級品は使われていない。建材も遺跡部分を除いてすべて採取が簡単な木材でまかなわれていた。

遺跡側の本来窓があったはずの部分なんて、なにも代わりに置かれていないから吹きさらし同然であった。

 

「ええと、いま何時だったかな」

 

現在の時刻を確認するため、学校の3階、建物の正面にある大時計を見る。いまはちょうど午前8時のようだ。

1時間目までもうすこし余裕があるから、いつもどおり生徒から隠れながらゆっくり歩いていこうと、そう思って歩きだした瞬間。不意に、わたしは、近くから誰かに見られているような感覚をおぼえた。

校庭の隅で誰かに見られる、という感覚は久しぶりだった。

こんなことが起こらないように、わたしは生徒たちと距離を取りつづけていたのだから。

 

「……っ」

 

とっさに集中し、真後ろや左右、死角からの不意打ちを警戒する。1秒、2秒、まだなにも起こらない。

そのまま3秒が経った。この時点で不意打ちが来ないと確信して、5秒目にわたしは足をくるんと曲げて振りかえる。真後ろに誰かがいればそれでいいし、誰もいなかったら次は辺りを見回せばいい。そう思っていたのだけど――

 

「え……!?」

「……あっ!!」

 

視線がすれ違って、たがいが驚いた声を発した。次いで、わたしの目に口を大きく開けた少女の姿が映る。

小柄な少女だった。身長はわたしよりも10センチは短いだろう。服はおなじ楼附中学校の制服を着ていて、

頭にはふたつの大きな真っ白のリボンをつけている。首の中ごろまで伸びている短髪は美しく整っていて、

鮮やかな藍一色の髪が、わたしの目に強く焼きついていた。

 

「誰ですか……!?」

「ご、ごめんなさいっ! あなたはここの生徒さんですよね……?

 わ、私、実は今日からこの学校に転校する転入生で……いえっ、あの……す、すみません!」

「あっ、ちょっと待ってください!」

 

最初、少女はわたしを見つめながら、焦っているような口調で話をしようとするけれど、

すぐにわたしにむかって謝罪の言葉を口にすると、おびえているようにも、恥ずかしがっているようにも見える

ふるまいをしながら、足早にその場から立ち去っていってしまった。

わたしはその光景を前に立ち尽くしていたが、呆然とする途中で時間が8時10分をまわっていることに気づき、

急いで3-Bと書かれた教室にむかって歩きだす。しかし、教室までの道でその少女と再び会うことはなかった。

 

 

「起立、礼、着席。それでは1時間目、歴史の授業をはじめます。

 今回は現在の人類文明につながる大切な箇所を教えるので、覚えておくように」

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