空を見上げているのは、気分がすぐれないからだ。
最近はいつもこんな調子だから、下校の前には毎日、空を見上げるために屋上まで来ることにしている。
気分がすぐれなくなった理由はいままで考えないようにしてきた。考えるだけで頭が痛くなってしまうから。
「うん」
将来もなにも見えないままに、いまのいままでを過ごしつづけてきた。
それはこの学校から見ればごく普通のことだったけれど、わたしにはそれがどうしようもなく怖かったのだ。
生きていくうちに、ひとりで生きるのは、少しだけつらいと思ってしまったから。
「やっぱり、少し寂しいかな」
屋上の扉の周囲にある壁にもたれかかる。衝動に任せるまま物質転送、アポートの超能力を使うために念じると、
数秒後、携帯型のゲーム機と、ゲーム機に入れて使う四角型の物体が手のひらに転送されてくる。
機体のバーを動かして音量をゼロにしてから、四角型の物体をゲーム機に差し込み、機体の電源をそっと押した。
機体の液晶が光を発する。それとほとんど同時だっただろうか。屋上の扉がガシャンと鳴って強引に開けられた。
驚いて目を見開く。扉から現れたのがあの藍色の髪の少女だったから、思ったより強い驚きだったと思う。
「ふぅ、ふぅ……ああ、やっと見つけました。こんなところにいたんですか。
ええと……白宮さん、そろそろ下校の時間ですよ。私、結構長いあいだ探してたんですからね?」
「…………」
「……隣、いいですか? 少しお話をしてみたいって思って」
「それくらいなら大丈夫ですよ」
藍色の髪の少女――立花蘭。彼女はそう言った途端に勢いよく隣まで来て、わたしと同じように壁にもたれかかる。
それを気にせず、いや、少しだけ気にしながらゲームをはじめると、蘭の視線がわたしからゲーム機の方へむかったことに気づいた。蘭はわたしが遊んでいるゲームやゲーム機に関心を持ったのだろうか。いままで誰かにゲーム機を見せたことはなかったから、新鮮な気持ちがして。気づくとわたしは蘭に問いかけていた。
「ゲーム、気になるんですか?」
「はい。気になるっていうか、好きなんです。……珍しいですよね。
ビデオゲームなんて持ってる人も全然いないですし。あのっ、白宮さんはどこで手に入れたんですか?」
「何年か前……確か12月くらいでしたっけ。気づいたら孤児院の自室に置かれていたんです。
その時は院長先生に持っていったんですけど、あなたへのプレゼントですって、返されてしまって」
「クリスマスプレゼントですか?」
「もしかしたら、そうかもしれませんね」
「ふふっ」
蘭はもたれかかった状態から1歩、2歩と前に歩きだす。そのまま夕暮れの空に手がかざされると、
蘭の手から空に向かって光の線がはなたれた。その光の線は沈む太陽に向かって進みつづけたあと、やがて動きを止め、花火のように光を散らしながら弾けて消えていった。
自然界で見ることのない現象。だけどそれは、わたしの目には美しく、綺麗で、彩りのある景色に映っていた。
「きれいですね」
「そうでしょうそうでしょう。私がいちばん好きな魔法なんですから。
……ところで白宮さん、そのゲーム、結構知名度の低いRPGですよね。RPG、好きなんですか?」
「はい。最初は気分転換で遊んでいただけだったんですけど、でも、途中から遊ぶのが楽しくなってきたんです」
「……へぇ。そうだったんですね」