言葉を言い終えると、蘭がわたしの方に向き直る。視線が重なって、蘭の笑う姿が見えた。蘭はそのままポケットに手を入れると、笑顔のままポケットからなにかを取り出そうとする。息を吐く口が少し震えた。寒さには慣れているはずなのに、どうしてだろう。
蘭がポケットから手を出す。その手にはわたしと同じ形のゲーム機が握られていた。ところどころ塗装が剥げた藍色のゲーム機で、わたしの白色の機体とは色だけがちがっていた。
「……えと、白宮さん。ゲーム機、私も持ってきたんです。……あの、えっと……
私、子どもの頃からふたりで一緒にゲーム、遊んでみたいって思っていて……」
「はいっ、おーけーですっ!」
「――――っ!
……私、まだ、全部言ってないのに……っ」
「えっと」
「立花さん、って呼んでください」
「はい、立花さん」
反射的に肯定の言葉が出ていた。どうしてかは、わからなかった。ゲーム機の画面には午後4時50分と書かれている。少し空の方を見ると、太陽は沈み、空は暗くなり、夕暮れは夜に変わりはじめていた。本来なら学校の外に出て、帰路についているはずの時間。テレポートが使えるわたしはいまからでも問題なく帰れるけど、蘭はわからない。それでもわたしはいま、ここで蘭とゲームを遊んでいたいと思ってしまった。その方が楽しい気がしたし、
ここに来たときはすぐれなかったはずの気分が、蘭と話をしている時だけは、少しだけ良くなった気がしたから。
「白宮さん、いえ、ええと……のぞみちゃんっ」
「はいっ」
「これからやりたいこと、決まってますか?」
「いいえ」
「…………っ」
「でも」
「ひとつだけ、決まったかもしれません」
隣で同じゲームを遊んでいた蘭が、ゲームから目を放して再びわたしの方を見る。
唾を飲み込むようなふるまいをしたあと、蘭は意を決したように、わたしを見たまま口を少しずつ開けようとする。
蘭の言葉を待った。10秒か20秒か、短くない時間、誰の声もない静寂がつづいた。それから更に数分が経った。
空はもう暗くなっていた。それでも、わたしは蘭の言葉を待ちつづけた。空が暗くなってから蘭の言葉を聞くまで、それほど時間はかからなかった気がする。
「のぞみちゃん」
「はいっ」
「わ、私と一緒に……これからも、RPGを遊んでみませんかっ」
「……はいっ!」
そして――わたしは、きっと待ち望んでいたその言葉に、できる限りの感情を込めて「はい」と答えた。
わたしの顔はわたしにはわからない。けれど、そのときのわたしは、きっと笑顔で、元気な顔をしていたと思う。
Decades after the apocalypse...
2077/12/14